西穂高岳(標高2909m )
西穂独標(標高2701m )
新穂高ロープウェイからのピストンルート
登山日 2022/1/22(土)
総歩行距離 7.3km/累積標高差↑920m↓920m
体力度★★★★★
危険度★★★★★
絶景度★★★★★
※あくまで個人的な感想と計測
【コースタイム 】
新穂高ロープウェイ西穂高口→西穂山荘→西穂高独標→西穂高岳(ピストン)
・登りCT4:45 →結果3:07
・下りCT3:25 →結果2:03
・トータルCT8:10 →結果5:10
※結果のタイムは休憩時間も含む
【登山口へのアクセス】
駐車場は新穂高センターに行くちょっと手前のの深山荘の横にある登山者専用駐車場が広くて無料でおススメですけど、この時期は新穂高センターの目の前にある有料駐車場が開放されていたりして無料で駐車可能。
登山口の新穂高口駅までロープウェイで往復3000円。ザックの重さが6kgを超えると600円の荷物券が必要(計量します)。時期によって始発と最終が変わるのでチェックが必要です。
【地図等の詳細データはヤマップにて】
https://yamap.com/activities/15338783
西穂高岳の蒼白の頂きへ再び
2019年3月
僕はピラミッドピークって言うとんがったピークを通過して、半分凍りついた白い痩せ尾根を疲労でフラフラになりながら歩いていた。
風が轟音を伴いながら吹き荒れ、シェルのフードが激しく煽られて僕の頬をバチバチとビンタした。辺りはガスが凄い速さで流れていて、灰色の空には時折青空が見え隠れする。天気はイマイチだけど、高曇りのせいか遠くまでアルプスを見渡すことができたし、岩の稜線やピークに雲がかかって幻想的な風景作り出していた。目の前には冷たく無機質な世界がどこまでも広がっていて、自分以外の生命の気配はどこにもなかった。
竜の様に曲がりくねった尾根を不安になりながら進むと、その道はやがて片足一個分ぐらいの幅しかないトラバース地帯へと変化していた。これがとにかく長くて、ミスったら終了、みたいな理解し難い状況が延々と続いた。
実は妄想では西穂高を登頂した事はあったけど、リアルに登りに来たのは今回が初。お恥ずかしい事に夏すら登った事なかった。雪山初心者の僕はこんな経験した事ないし、この前足を攣りながらやっとの思いで登った雪の赤岳とは比較にならないぐらいスリリングで怖かった。本気で冬の西穂高を目指したいなら、まずは西穂山荘に泊まって朝一からじっくりチャレンジするべきだったんだと思う。どう考えてもロープウェイの最終を気にしながら急いで歩く様なとこではないよね。
恐怖と格闘しながら、ピッケルにしがみつきながら、集中力を切らさない様に一歩一歩慎重に進む。風がとにかく強くて、気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうだった。カメラを構える余裕なんて全くなかったし、なんで自分はこんなとこにいるんだろうと思いながら進んでいると、僕は主峰の直下にいた。
目の前には壁みたいな真っ白な急斜面があって、ついに先に進めなくなってしまった。とても長い壁だった。目指すピークは恐らくこの上だ。こんな雪の壁を登った事ないし、クライマーでもあるまいし、今の自分の技量で登れるわけがない。やっとの思いでこんなとこまで来たのに、これは何かの間違えだと思いながら巻道や雪で埋まった鎖場を必死で探した。でもそんなもんはどこにもなくて、ピークを踏むにはこの壁を進むしかないことを半分絶望しながら理解した。
勢いと好奇心でここまで来てしまったけど、これ以上進めば本気で帰れなくかもしれないし、家族にも会えなくなるかもしれない。笑い話しではなくなってしまう。今日の目的は雪山ステップアップの為に独標を目指していただけだったはず。あの時僕はなぜ、独標から先の白い死の世界みたいな光景を目の当たりにして、その先へ一歩踏み出してしまったんだろう。あの時踏み出さなければこんな状況にはならなかった。今なら引き返せる、頼むから誰か止めて欲しい。こんなのを登るなんてあり得ない。本気で誰か僕を止めて欲しい、と願った。
気づくと僕は西穂高岳山頂の標柱の隣りに放心状態でつっ立っていた。
あんまり思い出したくないけど、さっきの雪壁でちょっとだけ死にかけました。今まで40年以上生きてきて死にかけた事ってあったっけ。雪から少し出てた岩を左手で掴んでホールドにして思い切り懸垂した瞬間、岩が突然雪の中から抜け落ちて、バランスを崩して身が投げ出された。アイゼンで必死に踏ん張りながらも右手のピッケルにぶら下がってたわけで。頭が真っ白になってしまって。落ちなくてもビビり過ぎて心臓が停止するかと思った。漫画みたいな話しだけど本当に走馬灯みたいなやつがちょっと見えた気がしたんだよね。僕の人生ってなんだったんだろうなって。
それにしても凄い景色だった。神々しいとはまさにこの事か。僕はサングラスを外して目や鼻の穴にこびりついた氷を払いのけながら、帰りの事なんて気にする事無く、非現実的なアルプスの山々をしばらくぼーっと眺めていた。その時、これが雪山登山なんだなと初めて思ったのを今でも覚えている。
西穂に行く度にあの時の事を思い出して、言葉では表現し難い不安な気持ちに包まれる。きっとこれをトラウマと言うんだと思う。未熟な僕はあの後も色んな雪山に登ったけど、後にも先にもあそこまでの恐怖と絶望感を味わされたのはあの時だけだ。
あの後夏の西穂には何回も登ったし、その翌年の冬は厳冬期に挑んだけど悪天候で独標で退散、去年の4月には残雪の西穂を登った。その時は主峰まで登れたけど大分雪も溶けていたし、岩がかなり露出してアイゼンで歩きにくくて疲れただけで、正直そんなに大した事はなかった。残雪期ってとにかく暑いんだよね。冬のあの厳しくて凛とした感じは皆無だし。夏の西穂なんてもう難しくも怖くもなんとも無くなった。
だから今年はタイミングが合えば厳冬期にまた西穂高岳を登ってみようと思ったんだ。
西穂に向かう前日の夜にザックに荷物を詰めながら、やはりまたあの日の事を思い出していた。あの時より場数は踏んでいるし、鍛えて来た。今更何をビビってるんだ、って不安を振り払う様に自分に言い聞かせた。今シーズンは昨年より少しモチベーションが低めな事もあって、本当に行く必要があるのかとこの2、3日ずっと迷っていた。
厳冬期の西穂がどんなとこかは知らないけど、あの時みたいに初めて登るわけではないんだし、昨年の4月もなんだかんだで楽勝だったはずだし、しかも明日の天気予報は晴だし。山の怖さも十分理解してるはずだから、なんかあったら今なら引き返すって判断も出来るでしょ。しんどかったら独標だけでも登って絶景に癒されて帰ってくればいいじゃないか。もっといつも通りに気軽に考えようよ。
そう思いながら最近良く着ているハードシェルのジャケットを取り出そうとしたら、クローゼットの片隅に青いハードシェルが見えた。それは雪山を始めたばかりの頃に初めて買ったパタゴニアのハードシェルだった。パタゴニアでは珍しいゴアテックスのモデルで、当時の自分にはまあまあありえない値段だったけど、凄くカッコよかったし試着したらサイズもピッタリ、しかもセールでかなり安くなっていたので一目惚れして衝動買いしてしまった。もう結構古いし、色が今の自分に似合わない気がして最近全然着てなかったけど、僕を守って来てくれた思い入れの深いシェルだ。だから手放さずにずっと持っていた。そう言えばあの時もこのシェルを着てた様な。僕はそう思うと懐かしくなってそのシェルを取り出し、久々に袖に腕を通してファスナーをしめた。するとなんとも言えない安心感に包まれて、この青いハードシェルに「また西穂のてっぺんに立ってこい!」と言われた気がした。
・寝坊して予定より遅く新穂高センターに到着。センター前の駐車場にギリギリ車を停めれてラッキー。駐車場は準備中の沢山の人で賑わってる。それにしても今日は素晴らしい天気!
・ロープウェイは始発待ちの人で安定の大行列。ちょっとだけオミクロンが心配。ちなみに始発の時間は午前9時。
・人いっぱいで最初の便には乗れず。
・ロープウェイから西穂がくっきり!なんか今日は色々凄そうな予感
・AM9:37 久々の新穂高口駅からスタート。日帰りだから展望台には行かずにさっさとアイゼン着けて急いで出発。絶景は今日はいくらでも見れそうだから
・まずはお馴染みの雪の回廊から。地味に迷います
・流石厳冬期、こんなに雪が積もってるのは初めてかもしれない
・回廊を抜けるとユルいアップダウンが続く雪の林道が続く。かなり雪モフモフですけどトレース部分はしまってます〜
・素晴らしい!
・第一の難所。西穂山荘手前の急登開始。暑いので汗で濡れない様にシェルを脱ぐ
・結構急です(汗。そして長い。ここで体力を温存しておかないと後がもちません
・雲一つないお天気。あれは焼岳か
・AM10:18 まずは第一チェックポイントの西穂山荘に到着。まだそこまで人多くなくて良かった。休憩してちょっくら回復しなきゃ
・久々の西穂巨大雪だるま〜。今回の大きさは3mぐらいか。去年はいなかったような。
ここから森林限界に出るのでストックはしまってピッケルへチェンジ。メットも被っておきます。いい天気すぎてちょい暑いから、フリースのままでも登れてしまえそうな気がしてきた。
・西穂山荘って見下ろして見るのがいいんですよねー
・稜線上に出ると何故か風が吹き荒れ出して、一気に凍えるぐらい寒くなる…。寒すぎて急いでシェルを羽織ります。そんなに甘くなかったらしい
・すんごい天気とすんごい青空!ここまでクリアな西穂はもしかしたら初かもしれない。なんとしてでも今日は主峰まで行かねば!
・AM10:51 とりあえずお馴染みの丸山。既に絶景
・そして次の難所、独標手前の長い急登
・アイゼンの重い足かせをつけて、ここを登るのはなかなかしんどい。独標までで体力使い果たしたら主峰どころではなくなるし。それにしても風が冷たくて冷えて来ました。
・急登を登りきって独標に接近中。独標は真ん中へんの丸っこい岩山で、その奥に見える白く尖った山はピラミッドピークです。西穂ではありません
・独標手前はトラバース気味の岩場になりちょっぴり危険なのでご注意を
・この岩場をよじ登れは独標。プチ雪壁っぽくなっていて、滑落事故しばしば。そこまで難しくはないですけど、冬は危険ゾーンなので、ピッケルやアイゼン慣れしてない方や、この登りが怖い方は、軽い気持ちで登らない事をおすすめします。マジで
・AM11:30 久々の独標に到着〜。今日は空の青さ本当に際立ってますわ〜。ラッキーやん
・因縁の笠ヶ岳も真っ白。実は独標だけでもう結構満足していたりする
・西穂山荘から独標までの稜線と、その奥に乗鞍が
・で、本番はここから。主峰は手前のピラミッドピークの更に奥にある尖ったやつ。
独標まででもまあまあ疲れたし、風も強いし、本当に主峰まで行く必要があるのかって気がするけど、この天気で行けなかったら二度とこの時期に行けない気がする。ロープウェイの最終は16:15なんで、13:00ぐらいに主峰にたどり着いてないと帰りは相当キツいと思う。ここから1時間半の計算で、夏なら楽勝だけど冬はそうは行かないと思う…
・じゃあ行きますか〜。まずは独標を下りるところから。高度感があっていきなりまあまあ怖いっす。下った先が雪の痩せ尾根で早速危険な香りがプンプン
・ピラミッドピークまでひたすら痩せ尾根登り。雪庇とかもあるので気をつけて。気を抜くとたまに踏み抜いてビビります。地味に登るなぁ…。やっぱ独標から先は緊張しますね
・AM11:54 ピラミッドピークに到着。いい加減疲れました。とりあえず呼吸を整えて行きましょう。向こうの尖ったやつが多分主峰。結構遠い(汗。
なんかこの辺からカメラの露出設定が変な事になってた。しばらく気づかなくてショック。でもここから先はどちみちカメラを構える余裕がほとんど無くなります
・独標から主峰まで11のピークがありますけど、ピラミッドピークから先は、各ピークには登らずに稜線の飛騨側をひたすらトラバースするルート。
この辺りから結構神経を使います。雪が固かったり、柔らかかったり、雪の中に岩があったりの長いトラバース。落ちたらまず助かりません。ピッケルとアイゼンを慎重に使って前進。天気がいいだけで風も強いし三年前と状況は変わらずに普通に危険すぎ。
スタートした時はあんなにうじゃうじゃ人がいたのに、気づいたら誰もいなくなっていて自分一人に。先の方に小さく人っぽいのが見えていて、ドローンも見た様な。トレースもあったから安心してたんですけど、トレースは途中で消えて無くなってしまいました。風で消えた事を祈ります。トラバースから今度はサラサラの雪壁的なとこにぶち当たり、怖いけどステップを刻みなから稜線上に上がって行きました。歩いてるルートが合ってるのかどうかわけわかんなくて、間違ってるんじゃないかと不安に。
先を歩いていた人とはすれ違ってないし、エスケープルートなんてないし、いったい何処に行ってしまったんだろう…。奥穂まで行かないよね、幻?
・遂にまたあの西穂高の山頂直下に来てしまった。相変わらず最後の長い雪壁を登りきらないと、山頂にはたどり着け無いみたい。雪壁は正面左側。
去年の四月は残雪期で岩が結構出てて、かなり登り易かったですが、今回は真っ白けで三年前以上にどこもつかめる場所はなく、トレースもステップも消し飛んでありませんでした。さすが厳冬期って感じ。
ピッケルをダガーポジションに構えて、ピッケルとアイゼンの前爪を蹴り込みながら3点支持で慎重に登る。集中力を切らさないように。壁が前回より長く感じたの気のせい?登ってる途中でバテてしまい体力的に辛かった…。ピッケルを持つ右腕も疲れきってしまって。でも雪壁はこれまでも何回か登ってるから、三年前の様なあそこまでの恐怖感はなかったかも。慣れって怖いです。壁登ってる最中は当然写真撮る余裕なんて無し。死んでしまいますわ
・雪壁を無事に登りきりました(汗。ついに山頂はすぐそこ〜。風が強くて飛ばされそうでコエーです。
・PM12:44 西穂高岳登頂完了!
ついに登頂できた!なんとかリミットの13時までに間に合いました。山頂は誰もいなくて貸し切り状態。ロープウェイ組では一番乗りだと思います〜。心身共にかなり疲れ果てましたけど、これまでの西穂でNo1のお天気で凄く嬉しい限り!
・とにかく狭い山頂。周りは切落ちてるから油断したら落ちそう
・裏銀座の方まで見渡せる
・奥穂から立派なアーチを描く前穂高
・そして笠ヶ岳。山頂付近は雪でトロトロ。雪があるうちにリベンジしたいけどやっぱキツそうやなぁ(汗
・景色に見惚れていると私の後にいた方が無事に雪壁を登ってきました。どうやって自撮りするか困っていたので、写真を撮って貰えて助かりました〜。写真のお礼をすると、トレースを作ってくれてありがとうと逆にお礼されました。
・そうこうしてるうちに三人目の方もダブルアックスで登頂。この方もロープウェイで会った人です。ダブルアックスの方が絶対楽だし安全だと思います。私は持ってないですけど。恐らくロープウェイ日帰り組で主峰を登頂したのは三人だけかも。
・PM12:55 もっと休憩したいけど、サビーし、ロープウェイの時間が心配なのでアミノゼリーだけ飲んで下山開始
・登りは余裕なくてカツカツでしたけど、帰りは楽ちんだし、厳つい稜線を見ながら断然楽しい
・スゲーかっこいい稜線!こんなとこを登って来たなんて
・ピラミッドピークまで下ってしました。結構な高度感。まだこっちに向かってる人が何人かいました。すれ違うたびに主峰まで登れそうかと聞かれました。頑張ってください(笑
・独標が見えた
・本当にかっこいい稜線
・独標付近は人だらけ。やっぱ実は沢山人いたんですね。ピラミッドピークに向かう人も結構います。天気いいですし
・PM13:46 独標に無事に帰って来ました。もう後はそんなに急がなくてもロープウェイに間に合うかも〜
・と思ったら、想定外こアクシデントが発生。独標を下り始めた前のグループが独標直下の壁の途中で動けなくなりました。
先頭の緑の人がリーダーっぽくて、下から指示出してますが、紫の人は恐怖で固まって、どんだけ待っても1ミリも下がっていかない。上の四人もビビりまくりで、やはり動けない。全員無我夢中でピッケルを振り回してそこら中に刺しまくってる始末…。最初は落ちるんじゃないかってハラハラして心配して見守ってましたけど、あまりに動かないのでだんだん腹が立って来ました。手前の緑の人が下から僕を見て、先にどうぞって言うんだけど、道を完成に塞いでるんだから、じゃあどいて道開けてよって言いたくなった…。結局開けなかったけど。
隙見て無理矢理横から抜きましたけど、上から彼らが降って来そうで恐怖で、早くここから離れないとって感じでした。まともにアイゼンとピッケルを使えない人はここに来たらダメです。雪山や独標を舐めすぎです。独標は厳冬期は上級ルートと言われてます。
・予想外に時間をロスしてしまった。もっと時間がギリギリなら、かなり焦っていたと思う
・昨年登った霞沢岳〜。登っても見ても楽しいし、素晴らしい山
・PM14:25 西穂山荘に帰還。流石にラーメンは間に合いませんでした。とりあえず山荘はスルーで
・ロープウェイの駅まではもう楽勝なんですけど、最後のアップダウンが疲れた体には地味にこたえます…(汗
・PM14:58 雪の回廊を抜けてゴール!なんだかんだで最終便まで意外と余裕で帰って来れました。
念願の厳冬期の西穂高岳を最高のお天気で登れて本当に良かった!悩んだけど来て大正解〜。来年もまたこよう(多分)
・帰りは西穂登頂のご褒美に富山の有名サウナである、お馴染みのスパアルプスさんにお邪魔しました〜。水風呂やその水質がとにかく素晴らしいサウナでございます。ミネラルウォーターに浸かってる感じで
・サウナでどっぷり整った後は館内着に着替えてのサ飯。富山ブラックラーメンもオロポが疲れた体に染みまくり!酒なんて全然必要無し。これで十分。
本当に素晴らしすぎる、なんていい日だ!
ではでは